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耳鍼肺点の考察

 耳鍼研究紹介の中で、向野義人先生の論文から肺点の効果が副交感神経抑制であるとの結論がありました。解説の中で私は「副交感神経抑制であれば喘息に効くはず」と書きましたが、その件について私の考えを述べます。

 

 

 私が今まで経験した喘息患者さんの殆どは比較的症状の穏やかな、しかしネブライザーを使わずには生活が出来ない気管支喘息の方々でした。発作の起きないときは本人も喘息の事を忘れており、治療に来る理由も腰痛など他の理由からで、喘息そのものを治して欲しいと言っていらした方は2人しかいません。この2人の場合、背部の直接灸の治療2~3回以内で完治しました。今のところ喘息治療は基本的に灸、発作のときは頭鍼と使い分けています。弁証配穴の体鍼も用いていますが、体鍼のみでは発作はおさまりません。真剣に喘息治療を自覚している患者さんの場合は灸をすることに抵抗はないのですが、時々発作を起こす程度の方の場合、直接灸の治療は歓迎されないことがあります。この灸は背部に七点のはっきりとした灸痕が残ると、瀉法に属するかなり熱い灸だからです。そういったケースに耳鍼を活用できないかと思い、今まで5人に試しました。

 

 

 喘息治療を自律神経の分類から見ると、急性期は副交感神経抑制(気管支の拡張)、緩解期は交感神経抑制(気管支の炎症)が主になります。緩解期でも治療中横になっているだけでも気管から喘鳴が聞こえるようなケースでは、副交感神経亢進と見て、急性期と同様に扱います。頭鍼だけでは発作を止めるのには効果がありますが、発作期でない喘鳴には効果が落ちます。この場合、行気・去痰・清熱等、必要な体鍼を用いないと改善しません。この状態で耳の肺点・気管支点に毫鍼・パルスを行ったところ、喘鳴の抑制に効果があり、患者さんに胸が広がり、呼吸が楽になったとの実感が出ました。

 

 ところが発作気にはこの二点は効果がありませんでした。治療室内で横になって暫くしてから「発作が起きそう」と患者さんが訴えたので、耳鍼二点を刺鍼、パルス刺激しましたが、数分後発作が始まりました。そのときは頭鍼と体鍼(天突)で収まりました。この患者さんの耳点に円皮鍼を置鍼したのですが、帰宅後2日ほどしてやはり発作が起きたのです。

 

 発作の予防や抑制には肺点・気管支点は効かない、ただし喘鳴には効果がある、というのが今のところの実感です。治療中に「発作が起きそう」と訴えるケースは良くあります。ベッドに横になる、指圧の後、置鍼中などこれらは全て副交感神経を刺激しうるものだからです。このようなとき、ベットから上半身を起こし、頭鍼を行うと防ぐことが出来ます。これが耳鍼ではうまく行きません。
 前述の向野先生の研究で「肺点には副交感神経抑制効果がある」とありましたが、であれば発作を抑制できるはずです。ところがそれが確認できない。ただし喘鳴はへる。喘鳴がへるのはなぜか?気管支内の炎症(交感神経亢進)が抑制されるからではないのだろうか?だとすれば向野理論とは逆になってしまう。
 以上の考えはあくまでも喘息=平滑筋収縮=副交感神経過剰、という、狭い範囲での洞察でしかない。喘息発作の治療薬に副交感神経抑制剤が用いられるとはいえ、短絡的に考えられるものではないだろう。