耳点の位置には根拠があるのか?

Are auricular maps reliable for chronic musculoskeletal pain disorders?
(筋骨格系の慢性疼痛に対しての耳介反射区の配置は信頼できるか)
Elisabeth Andersson, Ann L Persson, Christer PO Carlsson
Acupuncture in Medicine Volume 25, Issue 3, Pages 72 – 79, Published 2007-09-28より

目的
患者の訴える筋・骨格系の疼痛の部位と、それに対応する耳介反射区の局在関係を調べる

方法
ペインクリニックから男女25人の筋骨格性の慢性疼痛を訴える患者を選び、実験の前に過去・現在の筋骨格系の疼痛部位等の病歴を聴取する。
疼痛部位は耳の反射区を参考に、11の体部位のどこにあるかで示した。
試験官は実験中、患者の痛みの状態、病歴、検査時の反応が見えないようにした。
被験者は試験官による触診の際、耳介を手で触る、もしくは圧診棒による感覚を伝える時のみ意志を伝えることが出来る。
感覚の程度は五段階評価で記録し、さらに痛いか痛くないかで二分する。
耳介反射区の過敏さと疼痛部位の一致はパーセント、十段階値、感度、及び特異性として表示する。

結果
 25人の患者は過去・現在を合わせて116の筋骨格系疼痛部位を訴え、実験により110の過敏な部位が耳介上に見つかった。
 疼痛部位と耳の過敏な部位の間には統計学的に有意な関連は見出せなかった。

結論
 この研究の結果では、圧診棒を用いての耳介反射図に示された部位の反応と、患者の持つ筋骨格系疼痛領域の間に関連を見出せなかった。
 しかしながら慢性的な筋骨間系疼痛をもつ患者群において、非常に過敏な部位が耳介上に現れていた。

解説
 ノジェが耳点図を作るときにやったであろう実験を、筋骨格性疼痛を持つ患者で行って実証できるかを調べた研究。この実験は検査をする側もされる側も検査結果が予想できない状態(二重盲検法)で行っているので、実験デザインとしては客観性を証明できるのだがこういう結果が出た。
 この検査では試験官は患者の疼痛部位を知らないので、先入観無く全ての部位を調べたことになるのだが、電探でならまだしも圧診法で広範囲をくまなく調べるというのはなかなか骨の折れる作業である。特に脊椎の投影する対耳輪部などは硬くなり易いし痛みも感じやすいのだが、下肢の投影する三角窩などは痛みをはっきりと感じにくいことがある。
 この実験が正確に行われたとして、耳介反射区通りに耳鍼治療をして治療効果が出るかもしれない可能性は16.2%であるとしている。筆者は考察の中で、耳介反射区に因らず過敏な部位を触知出来たらそこを治療点とすべきであると勧めている。なにやら耳鍼療法の根底から覆りそうな結果となったが、ノジェ派の考えからこの実験結果を分析してみる。
 ノジェのフェーズ理論(段階理論)というものがある。これは、患者の病態により耳介反射区は三種類ある、という考えである。
 よく見る耳介図、つまり「逆さま胎児」の図はフェーズⅠであり、健康状態もしくは急性疾患の時に表われる耳介反射の配置図である。
 次にフェーズⅡは慢性期とも呼ばれ、病状の進行、悪化した状態に表われる耳介反射の配置図である。
 三つ目はフェーズⅢで、これは進行期に表われる耳介反射図である。フェーズⅢは三番目に発見されたのでこの番号だが、病気の進行順序で言えばフェーズⅡの前に現れる。即ち、Ⅰ→Ⅲ→Ⅱの順番で、次第に進行、重症になっていく。
 それぞれのフェーズにおいて、耳介上に表われる耳点の位置はかなり異なり、例えばフェーズⅠで頚椎を指す対耳輪下方は、フェーズⅢでは大腿部の反応が現れるし、フェーズⅡでは甲状腺の反射点である。
 臨床上、肩や首の痛みが数週間~数ヶ月続いている患者さんというのは良くあるので、耳点図を三つも覚えるのは大変と思ったが、実際には十人に一人くらいしかフェーズⅡ・Ⅲに対応する点が見つからない。もしくはフェーズⅠの点とフェーズⅢの反応が同時に出ているかどうかということが時々あるくらいである。実際、ラファエル・ノジェの最新の本には「臨床上、九割がフェーズⅠ」と言っているし、フェーズⅡ、Ⅲを慢性期、進行期であるとも明記していない。フェーズⅠでの耳点で反応が見つからなかったらフェーズⅡ・Ⅲも考えて探索するよう進めている程度である。
 さて、この実験の被検者は皆慢性疼痛を持っている患者さん達であるので、フェーズⅡ又はⅢが現れた可能性は充分にある。とすれば、少なくともフェーズⅢである可能性も考慮して検査結果を分析しないと、ノジェのフェーズ理論を無視した実験となってしまう。(フェーズⅡはそもそも筋骨格系の反応がこの実験で用いた11の反射区に現れることが無いので除外できる)この論文では、ある部位に疼痛を持つ被検者の耳介のどの部位に敏感な点が現れたかを記録していないので、それを分析することが出来ないのは残念である。
 このような耳鍼法の理論の違いにより、優れた実験デザインであっても納得しにくい研究が時々ある。異なった耳鍼法でも共通で持てる認識としてあの耳介反射図があるのだが、この著者が参考文献としてノジェのフェーズ理論を説明した本を参考文献としている以上、被験者個別の耳介反応点記録を掲載し、分析する発想があっても良かったのではと思う。